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業界トピックス

盗難被害の賃貸人の責任と、管理会社の使用者責任

盗難被害は賃貸人に賠償責任ないとされた判例

(裁判の経緯)
 宝石や貴金属の加工、販売等を営む業者が、オーナーからビルの一室を事務所として賃借し、賃料月額32万円余、管理費はゼロとの約定で賃貸借契約を締結した。ところが、このテナントは深夜、ピッキングによる盗難被害に遭い、貸室に保管していた宝石類や現金等合計109万円余を盗まれるという被害に遭ったとして警察に被害届けを提出した。

(訴訟内容)
 テナントは、盗難はピッキングによるものであると主張。前年の春に同ビルの1階の喫茶店が、また同年の7月には4階と6階の貸室がピッキングの被害に遭っており、これまでに今回と同種の盗難被害が多発していることはオーナーも知っていたのだから、オーナーとしては、賃貸借契約における賃貸人としての管理責任の一環として、テナントに対し、過去の被害の事実を告知し、防犯の注意を喚起するとともに、機械警備の導入や、ピッキング被害に遭い難い鍵に交換する等の被害防止策を講ずる義務があったにもかかわらず、これを怠り、何らの措置も講じなかったのであるから被害に遭ったテナントに対し、損害を賠償すべき責任があると主張し訴訟を提起した。

(オーナーの反論)
 オーナーは、「本件被害は、そもそもピッキングによるものであるか否かが未確定である」と主張するとともに、事務所内に宝石や貴金属等の高価品を保管することは用途外使用であり、テナントは金庫に保管していなかったのであるから、その盗難被害はテナントが甘受すべきであると主張し係争となった。

(判決内容)
(1)そもそも、賃貸借において、賃貸人の負うべき本来的義務は、賃貸物件を使用、収益させる義務、賃貸物件の使用収益に必要な修繕を行う義務の外、担保責任及び費用償還義務であって、テナント側の主張するような賃貸人所有財産を盗難等から保護することを内容とする管理義務は賃貸借契約から当然に導かれるものではなく、特約や信義則上の付随義務として認められる余地のあるものと解するのが相当である。そして、賃貸人がこのような管理義務を負う場合にどの程度の義務を負うのかは、個々の賃貸借契約の事情に応じて判断されるべきである。本件賃貸借契約についてみてみると、

 1.本件全証拠を検討するも、テナントとオーナーが貸室の防犯について特段の合意をしたとは認められないこと
 2.本件賃貸借契約においては、「地震、火災、水害等の災害、盗難その他、甲(賃貸人)の責めに帰することのできない事由によって乙(賃借人)の被った損害に対しては、甲はその責めを負わないものとする」(第11条)とされ、盗難による損害はオーナー側の免責の対象とされていること
 3.本件事務所入口の扉はダブルロックであり、一応の防犯効果が期待できたこと

 などの事情に鑑みれば、テナントはオーナーに対し、既存の鍵の維持管理をすること以上に盗難被害を防ぐべき義務は負っていないと解するのが相当である。

(2)また、
 1.オーナーは、近隣で窃盗事件が多発していることを認識し、順次その賃貸ビルに機械警備を導入している最中であったこと
 2.オーナーは本件盗難以前には、本件ビルにおける窃盗被害がピッキングの被害によるものであったか否かを知らず、特にピッキングの被害について警察からの指導、報告もなかったこと
 3.テナントがオーナーに対して鍵の交換を求めたことはなかったこと

 などから、テナント側の主張するような、オーナーがテナントに対し、ピッキング被害防止策を講じ、あるいは窃盗被害を報告すべき義務を負っていたということはできず、オーナーに債務不履行責任は認められない。
(東京地裁平成14年8月26日判決)

 賃貸借契約において、賃貸人はどこまで管理義務を負うかについては、個々の賃貸借契約の締結された事情に応じて判断されるべきとした判例です。

管理会社の使用者責任が問われたケース

平成2年、賃貸管理業界を揺るがす大事件が浜松で起こりました。賃貸管理会社の社員が自社で管理するマンションの鍵を持ち出し、そこに住んでいた女子医大生を暴行・殺人した事件です。
 この事件により、管理会社にも「犯人に鍵の管理責任者をさせていた」ことから、企業の使用者責任をめぐり訴えられ、結局、1億7,000万円の損害賠償が命じられました。
 経営者は「うちの社員に限って」と思われるでしょうが、企業にとってあらゆるリスクを想定し、リスクマネジメントを講じておかなくてはならないのが経営者の責務と言っていいでしょう。
 平成18年5月11日、都市居住推進研究会定例会において、株式会社明和住販流通センター代表取締役の塩見紀昭氏は、この事件に対し「このような事件の発生を未然に防ぐためにはどうすればいいのでしょうか。これは、『管理会社が入居者の鍵を持たない』しかないと考えられません。現状では、『何となく管理者として鍵を持っている』というものがありますが、必ずしもオーナー・管理会社が鍵を持たなければいけないわけではありません。私どもの会社では、物件により鍵を持つものと持たないものに分けています。お客様に『私どもでは鍵を持ちません。鍵をなくしたときはご自分で鍵屋を手配してください』と言っています。この時、私どもはお客様に対してリスクを渡したことになり、リスクの分散をしたことになります」と発言しています。 賃貸管理業界を揺るがしたこの事件から、鍵管理の重要性ということが見えてきます。
 全管協では、新新委員会の中に鍵管理分科会を立ち上げ、
 1.防犯性能として鍵-安全性と入居者保護の観点からの鍵というもの
 2.管理上の防御としての鍵-管理会社としての鍵の運用効率と業者としての企業保護の観点
 3.定期的な収益事業としての鍵-アウトソーシングから内部収益事業として捉える
 4.積極的な仲介能力としての鍵-鍵を管理物件獲得の武器とする
など、様々な観点から鍵を捉え、リスクを減らしながら効率的な鍵管理手法を模索・研究していることを最後に付け加えておきます。